東京地方裁判所 平成4年(ワ)10232号 判決 1994年1月28日
東京都渋谷区神宮前五丁目五〇番一〇号
原告
ディーディーエー・ジャパン株式会社
右代表者代表取締役
高野綱夫
右訴訟代理人弁護士
角藤和久
同
田村幸太郎
東京都渋谷区代々木二丁目二七番一六号
被告
フォービィ・マネージメント株式会社
右代表者代表取締役
井上峯夫
主文
一 被告は、原告に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成三年一〇月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
主文同旨
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は、紳士、婦人、子供服等の衣料品の製造販売及び輸入販売等を業とする株式会社であって、平成二年七月一三日に設立されて以来、別紙目録記載の商標(以下「本件商標」という。)を使用した衣類、小物類を主に販売してきた。
2 被告は、平成二年七月三〇日に、当時休眠していた大東電気工事株式会社の社名を現在の社名に変更し、また、定款の目的も衣料品、洋品雑貨等の売買、製造加工及び輸出入等に変更した株式会社である。
二 当事者の主張及び争点
1 原告の主張
(一) イタリアのミラノ 20145 ヴィア グリツィオッティ 4に本店を有する訴外マグネティ マレリ ソチエタ ペル アツィオニ(以下「マレリ社」という。)は、本件商標について商標権を有するものであるが、平成元年一〇月一四日、訴外株式会社フォービィマネジメント・インコーポレイション(昭和六四年一月七日に株式会社フォービィとして設立された会社であり、平成三年九月二六日に現在の商号に変更している。以下「フォービィ社」という。)に対し、日本国内において本件商標を衣類等に使用することを許諾した。
(二) フォービィ社は、平成二年七月、原告に対し、右(一)の使用権に基づき、本件商標の日本国内における使用を再許諾した。
(三) マレリ社とフォービィ社は、右(一)の使用許諾契約が口頭による合意であったため、平成三年二月五日、ミラノ市において書面により使用許諾契約を締結し、それぞれその代表者が同契約書(甲一号証の登録商標契約書。以下「本件契約書」という。)に署名した。なお、原告代表者高野は、右契約締結に立ち会っている。
(四) 原告は、平成二年七月から、右(二)の再使用許諾契約に基づき、本件商標を使用した衣類、小物類をF1グランプリが開催される会場等において販売してきたところ、被告は、平成三年四月以降、原告、並びに、F1グランプリが行なわれる鈴鹿サーキット会場内に出店する販売店の決定権、管理権を有しているホンダ開発株式会社、日本でのF1の放映権、F1フエア催事権を有する株式会社フジテレビジョン、鈴鹿サーキット会場に販売店舗を有する株式会社オンエア、同じく有限会社フィックス(屋号GPコレクション。以下「GPコレクション」という。)及び株式会社レナウンら原告の取引先に対し、内容証明郵便、FAX、電話又は口頭により、「被告が本件商標を日本国内において使用する権利を有する唯一の会社であるから、原告が本件商標を使用した商品を製造販売するのは違法であるであり、原告との取引は即刻中止すべきである」旨の申入れをした。
(五) 原告の各取引先は、被告の右営業妨害行為により、原告との平成三年八月以降の取引を中止するようになり、原告は、被告の右行為により、次の損害(得べかりし利益)を被った。
(1) 平成三年一〇月一八日ないし二〇日までの三日間の鈴鹿サーキット会場の店舗での販売(卸)が中止になったことによる損害合計一億二〇〇〇万円(原告が平成二年のF1グランプリにおいて本件商標を使用した商品を販売したときの実績をもとに計算したもの)
ア 同会場におけるホンダ開発が管理する店舗への販売(卸)による得べかりし利益
一五ブース×一〇〇〇万円(平成二年における一ブースの三日間の売上実績)×〇・四(利益率)=六〇〇〇万円
イ 同会場におけるGPコレクションの店舗における販売(卸)による得べかりし利益
三ブース×五〇〇〇万円(平成二年における一ブースの三日間の売上実績)×〇・四(利益率)=六〇〇〇万円
(2) 平成三年八月一〇日から同月一七日にかけて東京駅で開催されたF1フェスティバルにおける販売の中止による損害一二〇万円
三〇〇万円(予定売上額)×〇・四(利益率)=一二〇万円
(3) 平成三年八月以後のフジテレビジョン主催のF1フエアにおける販売中止による損害(二回分)一三〇〇万円
一〇〇〇万円(平成二年実績による各一週間の売上)×二×〇・六五(利益率)=一三〇〇万円
(六) 原告は、被告に対し、主位的に不正競争防止法一条一項六号、同法一条の二第一項、予備的に民法七〇九条に基づき、右損害金合計一億三四二〇万円の内金五〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成三年一〇月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を本訴において請求するものである。
2 被告
(一) マレリ社と平成三年二月五日に本件商標の使用許諾契約を締結したのは、フォービィ社ではなく、被告である。
(二) 仮に、フォービィ社が右使用許諾契約を締結したとしても、同社とマレリ社との契約においては、再使用許諾が禁止されているため、原告には本件商標を使用する権利はない。
3 よって、本件の争点は、次のとおりである。
(一) マレリ社と平成三年二月五日に本件契約書により本件商標の使用許諾契約を締結したのは、フォービィ社か被告か。
(二) フォービィ社の原告に対する再使用許諾は有効か。
(三) 損害の額
第三 判断
一 争点(一)について
1 前記第二、一の争いのない事実並びに証拠(甲一一、原告代表者及び以下の括弧内の各証拠)によれば、次の事実が認められる。
(一) フォービィ社は、昭和六四年一月七日、本店を台東区寿一丁目二一番一一-六〇一号として設立された会社であり、紳士、婦人、子供服等の衣料品の輸入販売等の事業を営んできた会社であるが、その代表取締役は、設立以来現在まで時枝章であり、時枝健は、その取締役である。(甲九、二四、三六)
(二) フォービィ社は、平成元年一〇月一四日、マレリ社から本件商標を衣類に使用することについて許諾を受けた。マレリ社は、電装品メーカーであり、衣類を販売する会社ではなかったため、フォービィ社が本件商標を使用した商品を販売することによって日本におけるマレリ社の宣伝になればよいとの考えから、当初は、本件商標の使用料は不要との考えであり、また、そのため、右使用許諾契約は、口頭によるものであり、契約書も後日作成されることになった。(甲一七)
(三) 高野綱夫は、平成二年三月ころからフォービィ社に対し、金員を貸し付けており、その貸付金額は、同年五月三一日には、一三五〇万円になっていた関係もあって(甲二九ないし三四)、フォービィ社から本件商標の再使用許諾を受けて、本件商標を使用した製品を販売することになり、そのため、平成二年七月一三日に原告を設立した。原告は、同年八月に静岡テレビにより開催されたF1フエアにおいて、本件商標を使用した商品を販売し、また、同年一〇月、鈴鹿サーキット会場のGPコレクションの販売店舗においても本件商標を使用した商品を販売し、いずれも売れ行きは極めて好調であった。また、原告は、同年一一月には、フジテレビジョンの協力を得て、同社主催のF1フエアにおいて本件商標を使用した商品を販売した。(甲一四、二二、二三の1ないし6、二五、二六)。
(四) フォービィ社は、右のとおり本件商標を使用した商品の売行きが好調であったため、マレリ社と本件商標の使用許諾契約について正式に契約書を作成し、また、本件商標の使用料も支払うことになり、時枝章及び時枝健は、平成三年二月五日、ミラノ市のマレリ社において、同社のルイジッテイ及び原告代表者高野綱夫が立ち会う中で本件契約書の末尾の「FORBEE MANAGEMENTS INC.」の下の欄にそれぞれ署名し、後日、マレリ社の代表者アレクサンドロ・バーバリスが右契約書に署名して、同契約を締結した。
(五) フォービィ社は、昭和六四年一月七日設立以来右当時も「株式会社フォービィ」が商号であったが、海外との取引においては、設立当初から「FORBEE MANAGEMENTS INC.」という名称を使用していた。(甲一、九、三六)
(六) 原告の代表者高野綱夫は、フォービィ社の資金繰りが苦しかったため、同社に代わって、平成三年三月二五日、前記使用許諾契約により支払うべきミニマムロイヤルティーの五〇パーセントに当る二五〇〇万イタリアリラをマレリ社に支払った。なお、時枝章及び時枝健が右契約締結のために渡欧した際の費用も、原告が負担した。(甲一二、二七)
(七) フォービィ社は、平成三年二月一七日、マレリ社との右使用許諾契約に基づき、原告との間で、文書により本件商標の再使用許諾契約を締結し、本件商標の使用料を支払うことなどを合意し、また、フォービィ社と原告は、同年九月七日に、再契約し、同契約を更新しているが、右各契約の契約書は、いずれもフォービィ社の代表取締役である時枝章と原告の代表取締役である高野綱夫との間で署名押印され作成されたものである。(甲二、三)
(八) マレリ社は、平成三年二月一三日、本件商標について日本における商標登録出願をしており、また、フォービィ社が原告に対し、本件商標の再使用許諾契約を締結することについても了承している。(甲七の1ないし6、二〇)
右のとおり、本件商標について従前から口頭で使用許諾を受けていたフォービィ社が文書で契約することとなり、同社代表者である時枝章において本件契約書に署名している等の前記認定の各事実によれば、マレリ社と本件商標の使用許諾契約を締結したのは、フォービィ社であると認めることができる。
2 被告は、マレリ社と本件商標の使用許諾契約を締結したのは、フォービィ社ではなく被告である旨主張し、被告代表者の供述及び乙第一号証の記載中にはこれに沿う部分があるが、次の(一)ないし(五)に述べるところ及び弁論の全趣旨(被告の本件訴訟の遂行態度等)に照らし、採用することができず、他に前記1の認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 被告は、昭和五一年六月一四日、商号を大東電気工事株式会社、本店を品川区西品川三丁目二〇番六号として設立された会社であり、いわゆる休眠会社であったところ、井上峯夫が平成二年七月三〇日付け(同年八月二八日登記)で、その商号を、フォービィ社が昭和六四年一月の設立当時から海外との取引において自社の表示として使用してきた「FORBEE MANAGEMENTS INC.」を日本語に置き換えた名称である「フォービィ・マネージメント株式会社」に変更する等して会社継続したものであるが、本件契約書に記載された当事者であるFORBEE MANAGEMENTS INC.は、同契約書中に「フランスやイタリアから衣類やさまざまな商品を輸入販売している会社である。」と記載された会社であって、これは休眠会社であった被告とは明らかに異なっている(甲一、九、一一、三六、三七)。
(二) 平成三年二月五日に締結された本件契約書中には、FORBEE MANAGEMENTS INC.側として時枝章及び時枝健の署名があるところ、この点につき被告代表者は、取締役である両名に代理権を与えた旨供述するが、同契約書中には代理人の資格で同人が署名した旨の記載や代理権の授与を示す資料の添付はなく、また、右契約締結の前後頃、時枝章及び健の両名が同時に被告の取締役であったことはないから、右供述は採用し難いし、これに対し、フォービィ社の代表取締役は、昭和六四年一月七日に同社が設立されて以来現在まで時枝章であり、時枝健は、同じく同社の取締役である(甲三七、乙三の1)。
(三) フォービィ社は、その設立以来、外国法人との契約及び海外との取引において自社の名称として、「FORBEE MANAGEMENTS INC.」を使用しているのであり(前記1(五))、また、株式会社フォービィという商号の会社が対外国法人との取引の際に英文上の名称として「FORBEE MANAGEMENTS INC.」を使用することは、特に異とすべきことではない。
(四) 本件契約書中には、契約当事者である「FORBEE MANAGEMENTS INC.」は、渋谷区代々木二-二七-一六ハイシティーヨヨギ五〇一に登記した事務所を持つと記載されているところ、被告の本店所在地は、右同所であり、フォービィ社のそれは、前記のとおり台東区寿一丁目二一番一一-六〇一号であるが、フォービィ社は、本件契約書を作成した当時、その事務所を渋谷区代々木二-二七-一六においていたものであり(甲一一)、また、被告がその住所を品川区西品川から渋谷区代々木の前記住所に移転したのは平成三年二月一日付けであるが、その登記は、本件契約書締結の後である同年四月一一日になされている(乙三の2)。更に、マレリ社とFORBEE MANAGEMENTS INC.は、平成四年二月二一日に本件商標使用許諾契約を更新して、新たに文書を作成して契約を締結しているところ、FORBEE MANAGEMENTS INC.の代表者として契約書に署名しているのは時枝章であるが、同人は、フォービィ社の代表者であるものの、被告代表者ではなく既に被告の取締役を辞任しており、また、右契約書に記載された同社の住所は、渋谷区代々木ではなく、港区南青山六-一二-一二に変更されている(甲一六)。
(五) 平成二年において本件商標を使用した商品を販売していたのは、フォービィ社から使用許諾を受けていた原告であり、被告ではない(前記1(三))。また、マレリ社も、本件商標使用許諾の相手方をフォービィ社と認識しており、被告を契約の相手方と考えてはいない(甲一九)。
3 以上のとおりであるから、平成三年二月五日、マレリ社と本件契約書により本件商標の使用許諾契約を締結したのは、被告ではなく、フォービィ社であることが明らかである。
二 争点(二)について
マレリ社とフォービィ社との本件商標の使用許諾契約においては、「この契約は・・・被認可者の権利の許可された承継者に対して効力を有し、拘束力を持つものとする。この契約は、被認可者の子会社と親会社ならびにそれらの子会社と親会社、そして認可者が許可する他の者に対して譲渡可能である。認可者の許可は不合理に留保されてはならない。」と規定されており(同契約書第一〇条)(甲一)、かつ、マレリ社は、フォービィ社が原告に対し本件商標を再使用許諾していることを了承していることは前記一1(八)認定のとおりである。
したがって、フォービィ社は、原告に対し有効に本件商標の再使用許諾をしているものであり、この点についての被告の主張は理由がない。
三 争点(三)について
1 前記第三、一の認定事実並びに証拠(甲一一、原告代表者及び以下の括弧内の各証拠)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 原告は、前記第三、一の(七)の契約に基づき、平成三年五月には商品の品質向上のためレナウンと商品の製造委託契約を締結し、同社に対し、約二億円相当の金額の商品の発注をする予定で、同年一〇月に開催される鈴鹿グランプリの会場における本件商標を使用した商品の販売(卸)の準備を進めていた(甲一四、一五、二二)。
(二) 被告は、平成三年四月から一〇月にかけて、原告や、F1グランプリが行なわれる鈴鹿サーキット会場内の売場管理、運営を行い、そこに出店する販売店の決定、管理権を有していたホンダ開発、及び、日本でのF1の放映権及び各地でのF1フエア催事権を有し、鈴鹿サーキット会場における販売店舗も有しているフジテレビジョン、及び、鈴鹿サーキット会場における販売店舗を有しているフジテレビジョンの子会社のオンエア、同じく販売店舗を有しているGPコレクション、並びに、原告へ本件商標を使用した製品を納入する予定であったレナウンら原告の取引先に対し、内容証明郵便、FAX、電話又は口頭により、「被告が本件商標を日本国内において使用する権利を有する唯一の会社であるので、原告が本件商標を使用した商品を製造販売するのは違法であるとして、原告との取引を即刻中止すべきである」旨の申入れをした。(甲四、五、八、一〇、二〇)
そのため、フォービィ社の代表取締役である時枝章は、同年一〇月四日、被告に対し、代理人弁護士を通じて、被告には本件商標を使用する権利が全く存しないことを内容証明郵便により明確に伝え、また、原告も、同年九月一七日、被告に対し、右一連の行為について厳重に抗議し、業務妨害行為を直ちに中止することを強く要求し、更に、同じころ、原告の取引先に対しても、被告の主張は全く根拠がないものであって、フォービィ社及び原告のみが、日本において本件商標を使用した商品を販売することができる権限を有する旨を内容証明郵便等により通知した(甲六、八、乙二)。また、フォービィ社の取締役時枝健は、平成三年九月一〇日、マレリ社を訪問し、マレリ社から、本件商標を日本において使用できるのはフォービィ社だけであり、被告又は井上峯夫がマレリ社の取引相手とは認められていないことを口頭で確認した(甲一九)。
(三) しかし、フジテレビジョン及びホンダ開発は、被告の前記(二)の警告を受けた結果、マレリ社と本件商標の使用許諾契約を締結しているFORBEE MANAGEMENTS INC.と被告とは、その商号及び本店所在地が同じであり、また、時枝章ないし時枝健が一時期被告の取締役の一員として名前を連ねていたことなどから、本件商標の使用権について裁判所の判断があるまでは、鈴鹿サーキット会場等において原告及び被告の双方ともに本件商標を使用した商品の販売を控えてもらうことを決定し、レナウンも、原告に対し、本件商標を使用した商品の出荷を停止したため、原告は、平成三年一〇月に鈴鹿サーキット会場において開催されたF1グランプリの際に、本件商標を使用した商品の販売(卸)をすることができなかった。(甲二〇、三七、乙三の2)
2 右認定の事実並びに前記一及び二認定の事実によれば、被告は、ホンダ開発、フジテレビジョンその他の原告の取引先に対し、原告が本件商標を使用する権限がなく、本件商標を使用した商品の製造、販売は、違法に被告の権利を侵害するものであるとの虚偽事実を陳述流布したことにより、故意又は過失により原告の営業上の信用を害し、原告の営業上の利益を害したものであると認められるから、これにより原告に生じた損害を賠償する義務を負うものである。
3 原告が被告の右営業妨害行為により被った損害について判断する。
前記認定の各事実並びに証拠(甲一一、一三、二五、二六)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成二年度のF1グランプリ鈴鹿サーキット会場等において本件商標を使用した衣類、小物類を販売(卸)したが、その売行きが極めて好調であったものであり、具体的には平成二年一〇月のF1グランプリ鈴鹿サーキット会場におけるGPコレクションの店舗への販売(卸)により、一ブース三日間で二五〇八万八六〇八円の利益(売上六二七二万一五二〇円×四〇%(利益率))を、また、平成二年一一月のテレビ静岡主催のF1フエアにおける販売により一ブース五日間で九九七万一三六〇円の利益を、更に、同三年三月に行なわれた富山テレビ主催のF1フエアにおける販売により二ブース五日間で一五〇九万四四八〇円の利益をそれぞれ得たこと、及び、原告は、ホンダ開発及びGPコレクションとの間で、平成三年一〇月の一八、一九、二〇日の三日間で鈴鹿サーキット会場において開催されるF1グランプリにおいて、原告が、GPコレクションの店舗の三ブース、ホンダ開発の管理する店舗の一五ブースにおいて、それぞれ本件商標を使用した衣類、小物類を販売(卸)することと、同会場において販売される右商品の小売価格のうち、ホンダ開発やGPコレクション(小売業者)が二五%を取得し、原告が四〇%、レナウン等の製造元が三五%を取得することを合意していたこと、及び、同会場におけるホンダ開発の管理する店舗の各ブースでの売上は、立地条件からいってGPコレクションの店舗の各ブースにおける売上よりは少ないのであるが、右静岡テレビ、富山テレビ主催のF1フエアにおける販売ブースと同規模のブースが予定されていたので、少なくとも右F1フエアのブースと同程度の売上が見込まれていたこと、並びに、原告は、平成三年七月の段階において、レナウンに対し右F1グランプリにおける販売のため二億〇六九五万円相当の本件商標を使用した衣類の製造の発注をしていたこと、以上の事実が認められる。
右認定事実によれば、原告は、平成三年の鈴鹿サーキット会場においては、平成二年より多数のブースで本件商標を使用していた商品を販売することをホンダ開発及びGPグランプリとの間で合意していたものであり、かつ、被告の前記営業妨害行為により、右販売の中止を余儀なくされたのであるから、右販売行為により得たはずの利益の賠償を被告に対し求めることができるというべきところ、右逸失利益の算定に当たっては、平成三年度は平成二年度に比べ原告が本件商標を使用した商品を販売するブースの数が増えているため、一ブース当りの売上は前年度より少なくなる可能性があることや景気の変動による売上金額への影響等も考えて、一ブース当たりの売上は平成二年度のものよりも控え目に認定するのが相当であり、したがって、原告は、平成三年度の鈴鹿サーキット会場におけるGPコレクションの店舗においては、少なくとも前年実績の約五割の実績(一ブース三日間で一二五〇万円、三ブースで三七五〇万円の利益(一〇万円未満切り捨て))を、また、テレビ静岡及び富山テレビ主催のF1フエアにおいて原告が得た利益の額は、一ブース当たり三日間で平均すると、五〇一万三一六八円((九九七万一三六〇+一五〇九四四八〇)÷一五×三)であるから、平成三年の鈴鹿サーキット会場のホンダ開発の管理にかかる店舗においても、前同様に販売ブースの数が多いこと等を考慮して、右F1フエアにおける販売実績の少なくとも約五割の実績(一ブース三日間で二五〇万円、一五ブースで三七五〇万円の利益(一〇万円未満切り捨て))を挙げえたものと推認するのが相当である。
なお、原告が主張する東京駅で開催されたF1フェスティバルにおける販売中止の損害については、その額を認めるに足りる的確な証拠はなく、また、平成三年八月以降のフジテレビジョン主催のF1フエアについては、具体的にいつごろ、どこで右のフエアが開催される予定であったか等について、これを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、原告は、被告の前記妨害行為がなければ、平成三年一〇月に鈴鹿サーキット会場において開催されたF1グランプリにおいて、本件商標を使用した商品の販売(卸)により、少なくとも七五〇〇万円(三七五〇万円+三七五〇万円)の利益を得たものと認めるのが相当である。
四 よって、右に認定した損害の内金五〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成三年一〇月二一日(鈴鹿グランプリ最終日の翌日)から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求はすべて理由があるので、これを認容する。
(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 設樂隆一 裁判官 足立謙三)
目録
<省略>